男たちのロマンを乗せた「朝比奈大龍勢」が秋の空に打ち上がる(美しく品格のある邑)

     

美しく品格のある邑に登録されている「藤枝市岡部町殿」で、2年に一度行われている「朝比奈大龍勢」は、岡部町の朝比奈地区に古くから伝わる伝統行事。静岡県指定無形民俗文化財となっています。

 
↑会場近くの道路沿いには「連」ごとののぼりが立てられていました

10月20日に行われた朝比奈大龍勢は、午前中には「全国龍勢サミット」も同時開催されました。
全国龍勢サミットでは、現在国内で龍勢の打ち上げを行う静岡県藤枝市岡部町殿、埼玉県秩父市下吉田、静岡県静岡市清水区草薙、滋賀県米原市、滋賀県甲賀市甲南町竜法師瀬古の全5地域のみなさんが集まり、大型モニターに映像を流しながら各地区の龍勢の紹介や開催状況を話したり、静岡理工科大学理工学部教授の増田和三さんを迎え、「龍勢の仕組みと飛び方」についてもお話いただきました。

 
↑「全国龍勢サミット」中のひとコマ

午後からはいよいよ龍勢の打ち上げです。

朝比奈川流域の玉取、小園、宮島、笹川、西の宮、宮上、宮の前、西の平、殿東組、五十又、二ツ谷、羽佐間、桂島の13組の龍勢連が参加し、手作りのロケットを打ち上げていきます。

この準備のために、各連では夏ごろから山から竹をとって来たり、落下傘を作ったりと準備が始まっています。龍勢の制作にマニュアルはなく、火薬の配合や炭の原料、「吹き筒」の素材まですべて各連の先輩方の口伝。
「吹き筒」とはロケットでいうエンジン部分をさし、ここに黒色火薬を詰めます。龍勢は、吹き筒の他にも青竹で作られた舵取りをする「尾」と、連星や龍、落下傘などの仕掛けが詰められた「ガ」の3つの部分からなり、それぞれが連の秘伝とされています。

 
↑落下傘は大きなものと小さなものとが詰められています


↑カラフルな煙をあげながら落下傘がゆっくりとおりてきます

朝比奈大龍勢は、地域に住む若い人から年配の方までが取り組んでおり、「龍勢には男のロマンがある」と言う人もいます。

 

男たちのロマンを乗せた朝比奈大龍勢が打ち上げられます。
自分たちの上げる順番になると、約20mにもなる櫓(やぐら)に龍勢を取り付けます。尾の長さが15mにもなる龍勢が、ロープなどで吊り上げて設置されると、楽しみのひとつでもある独特の口上を披露。


↑15mの長さがある龍勢を3人がかりで運びます

いよいよ点火! 龍勢を作った人たちと、観衆の思いを乗せて秋の空に白煙を上げながら一気に上昇。約400mほどの上空まで上がり、「ガ」がはぜると、落下傘などの仕掛けが青や赤色の煙とともに舞い降ります。この姿はまさに龍のようです。


↑オレンジ色のものが落下傘(閉じたところ)。大きなものは直径3mあるとか

昼の部が14発、夜の部が13発、その間に全国龍勢サミットに参加した草薙龍勢保存会と朝比奈龍勢保存会の共演で4発龍勢が打ち上げられました。

打ち上げが成功すると万歳三唱で祝うのが通例。会場には何度も大きな万歳の声が聞こえていました。


↑龍勢の成功を喜ぶ人たち


↑夜には龍勢だけでなく花火も上がり、周囲を明るく照らしていました

朝比奈大龍勢は、見学するための一般観覧場所が設けられ、地域の人たちが敷物を敷いて家族や親戚、友達と持ち寄った料理やお酒を片手に楽しんでいる光景は昔から変わらず。地域外から来た人たちは桟敷席を購入し、会場内で販売されている地元の名物や名産を食べながら見学もできます。


↑桟敷席。飲んだり食べたりしながら打ち上げを楽しみます

今年は午後から雨が降り出してしまったため、早々に帰ってしまう人もいましたが、龍勢を通して地域に住む人たち同士の関わりをより密に、そして地域外から来た人たちとも自然と会話が生まれるイベントなのです。

次の開催は2年後! 興味のある方はぜひお越しください。

 

写真協力:藤枝市