ふじのくに美しく品格のある邑・二子湧水の里で知る、地域一体のおもてなし。

御殿場市二子地区で今年1月にオープンした『ごてんば農家民宿村』。農家民宿とは、農家さんなどが住居を旅行者に提供し、共に農作業をしたり食事をつくることを通してその土地や暮らしを知ってもらうことを目的とした新しい旅行のかたちです。ごてんば農家民宿村には三軒の宿があり、それぞれに田舎体験(体験プログラム)が豊富ですが、今回は、古民家が美しい「松の葉」で、二子湧水で自ら汲んだ水を使って「ごてんばこしひかり」をかまどで炊いていただくという『品格のある邑に泊まり邑名所が見られて邑グルメが食べられる』、これ以上にない贅沢な内容に惹かれ宿泊してきました。

「松の葉」に向かう途中、道に迷ったことをオーナーである高橋暁子さんに告げると、雨の中、玄関先で傘をさして待っていてくれました。夕方の薄暗い雨の中、控えめな照明に照らされた古民家「松の葉」の佇まいはステキすぎて、古民家初体験の不安が期待に一変。そして、高橋さんの想像通りの優しい笑顔にほっと一安心。予約後から、丁寧にお電話や郵便を頂いており、お話をする度に、当日を迎えるのが楽しみになっていました。

宿名「松の葉」には、”松の葉に包めるほどわずかばかりの”という慣用句からの「ちょっとしたことしかできませんが」という意味が込められているそうです。「松の葉」は元々、高橋さんが12年間営業していた「みくりや蕎麦」専門店でしたが、休業を経て、今回、『ごてんば農家民宿村』オープンにあたり、三軒の民宿のひとつとして再営業。高橋さんは、特産品である「水かけ菜」の栽培を始め、旦那様が開墾した耕作放棄地で、農家民宿で提供する様々な作物と体験農園を管理しています。

※「みくりや」は地名の「御厨」に由来し、その昔、徳川家康が江戸への中継点としてこの地に御殿をつくり、食事を作る場所にしていたことに起源があるとのこと。「みくりや蕎麦」とは、①麺に山芋・自然薯を使用②麺は自家製か御殿場市内で製麺③麺とだし汁に市内の水を使用することが定義づけられています。出し汁に鶏肉を使用し、具材に鶏肉・しいたけ・にんじん・を使用したものが基本です。(御殿場みくりやそば「あなたのそばで振舞隊」HPより引用)

部屋に入ってすぐ、柿渋で塗られた壁や竹細工のような押し入れに目を奪われていた私たちに、「ちょうどお彼岸だから」と出して頂いた手作りぼた餅は、とても上品な甘さで、「最近の若い方は、あんこは食べないのではと思ったけれど」と、丁寧に語りかけて下さる高橋さんの横で、夕飯前という時刻も忘れ、連れて行った3才の娘とともにたいらげました。お茶も高橋さんが栽培しているものでした。

 

夕飯は、市内にある新鮮な御殿場の食材を使ったこだわりのグルメのある店舗を紹介していただけます。ごてんば農家民宿を運営している、「御殿場市農家民宿推進協議会」は多業種30名ほどのメンバーからなる組織で、「御殿場の魅力を知ってほしい」という理念の元、地域全体でおもてなしすることを大切にしています。そのため宿泊者には、夕飯や風呂などで地域に足を伸ばしてもらうことを目的としていますが、宿でゆっくりいただきたいという方にはケータリングサービスも手配していただけます。

 

近隣に日帰り温泉があるのですが、娘が小さいので、民宿のお隣、高橋さんのお家のお風呂を貸していただきました。そして、その晩は高橋さんと一緒に、地域のお話やご家族のお話を聞かせていただきました。まるで、友だちの実家に泊めて頂いているような、楽しくもゆったりとした時間で、娘もすっかりリラックスしていました。

 

翌日は、早起きをして念願の二子湧水へ。二子湧水の源からはあまりにも豪快に水が湧き出していたので驚きました。一帯が鏡のように澄んでいるので浅く見えるのですが、深さは2メートルもあり、周囲にはバイカモが自生していました。写真で見るのではわからなかった清らかさに、「これは守りたくなる」いや、「守らなければならないもの」だと感じ、『二子湧水保存会』の方々の活動が頭をよぎりました。この湧水の恵みにより、二子地区では水稲や水かけ菜が特産品となっているのですが、『保存会』の方々の清掃活動などによりこの透明度や湧水の適切な量が保たれています。溢れ出る湧水は、すぐ横を流れる黄瀬川に放流し、調整しているそうです。

湧水の近くの水路はどこもとにかく透明で美しく、その豊富さとなめらかさはもはや小川を感じさせます。「ここでアマゴがとれる」という話も納得。高橋さんは、この水路傍で、わさびも栽培しています。知り合いに教えてもらって作り始めたそうで、「出荷できるほどではないけれど、自宅用には十分と」おっしゃっていました(十分美味しかったです)。水くみ場で、水神様に感謝しながらご飯を炊く分の水を汲んで帰りました。

 

持ち帰った湧水を「ごてんばこしひかり」に注ぎ込み、待つこと30分。お釜で炊くとお米は全力を発揮するのでしょう。米粒の隅々まで水と火が通り、ハリがでて、一粒ひとつぶが主張していました。そこに、これまた湧水を飲んで育つ地元の鶏の「さくら玉子」をのせて、玉子かけご飯を頂きました。私はご飯を3杯頂きましたが、以前宿泊された80歳代の方は4杯食べたそうです。他、手作りのこんにゃくやかぼちゃなど畑でとれたもの、アマゴ、わさびなど心のこもったおかずもたくさんいただきました。

時期的に収穫体験はできませんでしたが、雨天時でもそば打ち教室やまき割りが通年で行えますし、時期により、新米を使った餅つき大会や水かけ菜での漬物作りなどの体験ができます。「ごてんば農家民宿村」の他二軒「ごろり庵」「ねこふくろう」でもまたオリジナルの田舎体験が用意されています。

 

今回娘を連れて行ったのは、3才児が古民家に泊まり、田舎体験をし、野菜を作ってくれた方が傍にいながらの食事をどう感じるのか知りたかったからです。娘は予想以上に水くみやかまどご飯を楽しんでおり、食事に驚いていました。農家民泊は、私たちのように典型的な核家族にとって、親戚の家で迎える正月のようなイベントになることを実感しました。

高橋さんは、「老後はピアノでもひこうかと思っていたのに、クワを持って民泊をすることになったわ」と笑顔で語ってくれました。とても上品かつエネルギッシュな方で、高橋さんのおもてなしの心は、宿や食事、娘への対応の隅々にまで感じられ、温かいものでした。農泊を始めて「楽しい」とおっしゃっていましたが、これだけの地のものを用意する時間と労力、宿泊者の気持ちや距離感を考慮した対応はなかなかできることではありません。愛される農家民宿の姿を学んだ気がしました。

 

「松の葉」には、高橋さんと同世代ぐらいの方もいらっしゃるそうです。都内や神奈川からくるその方たちには、高橋さんのこの優しくきびきびとした姿はロールモデルのように見えるのではと思いました。

 

ホテルでも、旅館でもない、新しい旅行のかたち。地域を知り、人を知り、土地を知る、その方法のひとつが農家民宿だと思います。気負わないから気負わせない。主と宿泊者との距離感がちょうどいい、受けたやさしさが帰るときに少し寂しい、また来たくなる。そんな思いを残してくれるのがきっと農家民宿なのでは、と思います。今後も二子地区と人の魅力を満喫するために、あと二軒の「ごろり庵」、「ねこふくろう」にも季節に合わせて行ってみたいと思いました。

 

「松の葉」さん、「ごてんば農家民宿村」の皆さま、大変お世話になりました。

ありがとうございました。

 

宿泊のお問合せは、梅の屋旅館さんにご連絡ください。0550-87-0032

梅の屋旅館さんに、宿泊希望宿、日程などをお伝えすると、各宿のオーナーに調整して頂けます。

 

ごてんば農家民宿村詳細: http://www.city.gotemba.shizuoka.jp/sangyou/f-p-info/f-p-info-01/971.html