【活動報告】日本一高値で取引される「三島馬鈴薯」 <ふじのくに美しく品格のある邑「三島箱根西麓地区」>

三島市のブランド商品として認知度を高めている「三島コロッケ」。その原材料となっている「三島馬鈴薯」が、実は日本一高値で取引される馬鈴薯(メークイン)であることをご存知でしたか?今回、三島馬鈴薯がどのような経緯を経て“日本一の馬鈴薯”と称賛されるまでになったのか取材させていただきました。

     

三島馬鈴薯がつくられている『箱根西麓三島地区』とは、富士山や駿河湾を見渡せる箱根連山の西側、標高50m以上の斜面にあり、この地域で採れた野菜が「箱根西麓三島野菜」と呼ばれています。限られた敷地面積の中で品目数が多いため、その野菜畑の姿は、“様々な色彩を描く野菜畑のパッチワーク”と称され、静岡県景観賞で優秀賞に選ばれています。

 

馬鈴薯の生産は、昭和30年頃から始まり、昭和45年頃、新たにメークインが導入されました。傾斜地のため、農地が広げられないなど、一般的にはデメリットが多いとされる中、標高の高さから生まれる昼夜の寒暖差、特に夜の冷え込み(平地に比べて4〜5度差開く)が野菜に適度なストレスを与え、糖分を引き出し美味しい野菜を作ります。火山灰の恩恵を受けた肥沃な赤土は保肥性が高く、傾斜地の水はけの良さも相まって、野菜の生育に適しています。

 

「三島コロッケ」を目にすることは多くとも、「三島馬鈴薯」を目にすることが少ないのは、収穫/販売時期が短い上に、9割方が東京・関西の市場に出荷され、残り1割しか地元の市場や直売所、スーパーなどに出荷されていないからです。そして、日本一高値になった理由は、三島馬鈴薯の『肌の美しさ』に由来しています。年間収穫量は500トン。北海道であれば1日分の収穫量(機械)に相当するそうですが、ここではその量を1ヶ月かけて手掘りで収穫。人の手による作業は「肌を傷つけにくい」そう。

 

梅雨の合間をぬって6月中旬から、人の手と目により腐っているものいないものを選別しながら丁寧に掘り起こされた馬鈴薯は、1日天日干しされた後、表面の土をさらに丁寧にほうきなどで取り去ります。そして、収穫後すぐに出荷するのではなく、2週間ほど冷暗で風通しのよい乾燥施設で保管・熟成されます。この工程は「風乾」作業と呼ばれています。またその後、再度、熟練の目でひとつひとつ痛んでいるものを振り分け、品質順に揃える工程があるのです。美しい肌を保つためには人の目と手を使った多大な手間がかけられています。

 

そして、「肌が美しい=皮がむけてない」ことを表します。皮がむけていなければ虫に食べられず、市場やスーパーの倉庫で眠っている間に腐らないから結果、棚持ちがよくなる。肌の綺麗さは「棚持ちの良さ」に直結しているのです。この棚もちの良さは流通サイドに驚きを与え、市場や飲食店の方達が安心して保管できるものとして信頼を勝ち取り、結果、日本一高値で取引される馬鈴薯としてその存在感を高めたのでしょう。

 

また、この時期、市場に出てくる馬鈴薯は三島馬鈴薯だけだそうです。通常、梅雨時期に大産地で収穫するとなると、掘り起こし切れず土の中で腐ってしまうためこの時期を避けますが、箱根西麓三島地区は、敷地面積が少ない分、一軒一軒の農家さんが無理なく掘りきれロスなくちょうどよく掘り起こせるそうです。その代わり量が少ないので高値になるのです。

 

傾斜地で栽培面積に限界があることは、機械の導入を遠ざけ、伝統的に丁寧に掘り起こす文化を浸透させ、そしてそれが結果、上質と評価される野菜を作る結果となったのでしょう。三島馬鈴薯は、2018年、国の地理的表示保護制度(GI)に静岡県下で初登録されました。GIとは、「地域の伝統に育まれ、生産地の気候・風土・土壌などにより生み出された品質をもつ産品の名称(地理的表示)を知的財産として保護する制度」です。三島馬鈴薯はまさにこの土地の土に合い、その伝統と技術により日本一の評価を得る産物となりました。

 

今回、取材に応じてくださったのは、三島箱根西麓地区の若手農家さんのリーダー的存在である宮澤竜司さん。一家三世代「宮澤農園」の5代目です。宮澤さんは「次の世代につながる農業をしていきたい」と語ります。そこには、先輩農家さんの高齢化が進む中、自らが模範となり、次世代のために稼げる野菜の基盤つくり、跡継ぎが戻ってこられる基盤をつくるという意思と、「三島で食べる野菜が三島でつくられない時が来るのをさけたい」という使命感があることを教えてくれました。

宮澤さんは使命感だけではなく、もっと面白くして、売る楽しみ作る楽しみのためにも箱根西麓三島野菜ブランド化を進めていこうと考えています。最近では、おしゃれレストランに行くとメニューに定着している箱根西麓三島野菜。宮澤さんは、「鎌倉野菜みたいになったら、(今は農業をしていない)おじいさんの孫や息子たちが継いでくれるかもしれない。サラリーマンを辞めて帰ってきても明日農業始めて稼げる体制が整っていれば帰ってきてくれるんじゃないか。農業をしてみたいという20代の気合の入った人も増えるかもしれない」と、期待を話してくれました。

 

新しい試みとして、6年前よりJA三島函南青壮年部は三島商工会議所青年部とタッグを組んで、三島大社で毎年行われる「新嘗祭(にいなめさい)」にも参加しています。箱根西麓三島野菜で「宝船」をつくり、奉納・振舞をしています。この「宝船」は、色とりどりの野菜を積み重ねてつくる芸術作品です。見ている側の驚きや楽しみだけでなく、宮澤さんにとっても、「普段の仕事道具を積み重ねる」というアクションは楽しくもあり、きれいに積み重ねることに喜びを感じるそうです。今年の11月をぜひ楽しみにしていましょう。

新嘗祭レポート:https://www.shizuoka-murasapo.net/mishimaniinamesai/

 

他にも、青年部の方々は市内の小中学生ほか、子どもたちへの食育活動も行っています。三島馬鈴薯の他にも、箱根西麓三島野菜の「みしまにんじん」大変美味しいと評判ですが、このにんじんをつかって蕎麦をつくり、子どもたちににんじん本来の味を伝えるための活動をしています。出汁にもニンジンを使っているので甘みがあるのです。12月には毎年恒例の「農業祭」が行われます。11月の新嘗祭、12月の農業祭と箱根西麓三島地区の2大イベントがこれからも控えていますのでぜひお楽しみに!! そして、今年三島馬鈴薯を目にする機会のなかった方々は来年をお楽しみに!!